猫でも分かる日本薬局方試験

日本薬局方の試験方法について分かりやすく解説します。

1.化学的試験法 (7)重金属試験法

1.07 重金属試験法

 

名前の通り、医薬品中の重金属が各条に規定する量以下であるかを確認する試験である
なんでこんなことを? まあ、重金属って言う名前からして体に悪そうというのは想像しやすいだろう。
ちなみに重金属とは,酸性で硫化ナトリウム試液によって呈色する金属性混在物のことである。
細かく言うと、pH3.0~3.5で黄色~黒褐色の不溶性硫化物を形成するPb,Bi,Cu,Cd,Sb,Sn,Hgなどの有害性重金属。色は濃度に比例する。
ちなみに量は鉛(Pb)(硫化鉛:黒色沈殿物)の量として表すため、医薬品各条には,重金属(Pbとして)の限度をppmで(書いてある。

※鉛を基準にしたのは諸説あるが、検出感度が高い、毒性高いからと言われている。

ヒ素試験法と共に人体に有害な金属を調べる重要な試験。第1~4まであるが、試料の特殊性からこれ以外の方法で試験を行う場合も多い(この場合、1~4法が使えないというわけではない。操作が簡単だから用いている場合もある)。

主な流れは

Pbを精製→PbSで白濁させて検液と濃度を比較する。

1. 検液及び比較液の調製法
別に規定するもののほか,次の方法によって検液及び比較液を調製する.

※10%以上の濃度差がないと目視で色の識別ができないので吸光度を用いた方が良い。(400nm)
1.1. 第1法
この方法を行えるのは、水40mLに溶け、希酢酸2mLを加えても沈殿を生じず、液のpHが3.0~3.5となり、回収率の良いもの。これできないなら2~4法の中から回収率の良いものを選ぶ。

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料をネスラー管にとり,水適量に溶かし,40 mLとする.
これに
希酢酸2 mL
+水
を加えて50 mLとし,検液(PH3~3.5)とする.

〈比較液〉
医薬品各条に書いてある量の鉛標準液をネスラー管にとり,
希酢酸2 mL
+水を加えて50 mL(PH3.0~3.2)とする.
アスピリンなど水に溶けにくい場合は、適当量の有機溶媒(エタノール、アセトン)に溶かしても良い

 

1.2. 第2法
有機系の医薬品によく用いられる。(灰化※して有機物除くからね)

※灰化→酸化して有機化合物を分解し、不揮発生の無機物にする。要するに有機物を除く行為。

〈検液〉
医薬品各条に規定する量の試料を石英製又は磁製のるつぼに量り,緩く蓋をし,弱く加熱して炭化(揮発しやすい有機物を除く)する.
冷後,硝酸2 mL及び硫酸5滴(硫化鉛:固体)を加え,白煙が生じなくなるまで注意して加熱した後,500 ~ 600℃で強熱し,灰化する※

 

※試薬が膨れて外にでないよう、弱い加熱で時間をかけて炭化する。ガスバーナの場合は還元炎生じないよう空気を調節し、小火炎を用いる。硫酸、硝酸は電気炉を傷めるので白煙がほとんど生じなくなるまで弱いバーナーの火炎又は砂浴で加熱することをお勧めする。近年では温度調節が可能なホットプレート砂浴が良く使われる。灰化は炭化物が完全に見られなくなるまで行う

 

冷後,塩酸2 mL(塩化鉛)を加え,水浴上で蒸発乾固し※,残留物を塩酸3滴で潤し,熱湯10mL(塩化鉛溶かすため)を加えて2分間加温する.

 

蒸発乾固は十分に行う、3滴は厳守。塩酸過量は中和に必要なアンモニアの量が多くなり、これにより塩化アンモニウムの量が多くなり、緩衝性がまし、希酢酸2mLを加えた際に検液のpHが4以上になってしまい、よくない

 

次にフェノールフタレイン試液1滴を加え,アンモニア試液を液が微赤色※となるまで滴加し,希酢酸2 mL(酢酸アンモニウムとなり析出)を加え,必要ならばろ過し,水10 mLで洗い,ろ液及び洗液をネスラー管に入れ,水を加えて50 mLとし,検液とする.

 

もし赤になるまで加えると、希酢酸2mLを加えてもpHが3.5以上にならない可能性があり、重金属の正確な判定が出来なくなる。この場合は希塩酸で中和して色を戻す

〈比較液〉

硝酸2 mL,硫酸5滴及び塩酸2 mLを水浴上で蒸発し,更に砂浴上で蒸発乾固し,残留物を塩酸3滴で潤し,以下検液の調製法と同様に操作し,医薬品各条に規定する量の鉛標準液及び水を加えて50 mLとする.

 

1.3. 第3法
これを使うのはほとんどない。ただ、第2法で灰化によって生じる塩酸では溶けないCuなどの還元性金属や不溶性金属酸化物を王水で溶かせる利点はある。この場合、白金るつぼは使えない
<検液>
医薬品各条に書いてある量の試料を石英製又は磁製のるつぼに量り,初めは注意して弱く加熱した後,500 ~ 600℃で強熱し,灰化する.
冷後,王水1 mL(濃塩酸:硝酸=3:1か4:1)を加え,水浴上で蒸発乾固し,残留物を塩酸3滴で潤し,熱湯10 mLを加えて2分間加温する.
次にフェノールフタレイン試液1滴を加え,アンモニア試液を液が微赤色となるまで滴加し,希酢酸2 mLを加え,必要ならばろ過し,水10 mLで洗い,ろ液及び洗液をネスラー管に入れ,水を加えて50 mLとする
<比較液>
王水1 mLを水浴上で蒸発乾固し,以下検液の調製法と同様に操作し,医薬品各条に規定する量の鉛標準液及び水を加えて50 mLとする.

 

1.4. 第4法
日本独自の方法で、第2法で回収率良くない場合用いる。マグネシウム塩はナトリウム塩よりも加熱しても蒸発しにくい利点を生かしたもの。

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料を白金製又は磁製のるつぼ※に量り,硝酸マグネシウム六水和物のエタノール(95)溶液(1→10) 10 mLを加えて混和し,エタノールに点火して燃焼させた後,徐々に加熱して炭化する

 

※るつぼはやや大きめの方が良い。硝酸マグネシウムのエタノール溶液と試料は良く混和し、燃やし終えたとき試料が均一に炭化されているよう習熟する

冷後,硫酸1 mLを加え,注意して加熱した後,500 ~ 600℃で強熱し※1灰化する※2.

 

※1 これやる前にまず弱く加熱して均一化する。例外:フィトナジオンは弱く加熱して炭化後、硝酸マグネシウムのエタノール液を用いるものもある。
※2 もしこの方法で,なお炭化物が残るときは,少量の硫酸で潤し,再び強熱して灰化する.

 

冷後,残留物に塩酸3 mLを加えて溶かし,水浴上で蒸発乾固し,残留物を塩酸3滴で潤し,水10 mLを加え,加温して溶かす.次にフェノールフタレイン試液を1滴加えた後,アンモニア試液を液が微赤色となるまで滴加し,希酢酸2 mLを加え,必要ならばろ過し,水10 mLで洗い,ろ液及び洗液をネスラー管に入れ,水を加えて50 mLとし,検液とする.
〈比較液〉

硝酸マグネシウム六水和物のエタノール(95)溶液(1→10) 10 mLをとり,エタノールに点火して燃焼させる.冷後,硫酸1 mLを加え,注意して加熱した後,500 ~ 600℃で強熱する.冷後,塩酸3 mLを加え,以下検液の調製法と同様に操作し,医薬品各条に規定する量の鉛標準液及び水を加えて50mLとする.

 

2. 操作法
色は時間と共に変化するから両者の時差を少なくするようにする。放置時間は5分が適当。10分くらい経過するとイオウの析出で白く濁り始める

検液及び比較液に硫化ナトリウム試液※1を1滴ずつを加えて混和し,5分間※2放置した後,両管を白色の背景を用い,上方又は側方から観察して液の色を比較する.検液の色は,比較液の色より濃くなければOK.

 

※硫化ナトリウム試液 

空気酸化防止のため、安定剤のグリセリンが入っているが、しだいに多硫化物や多チオン酸塩に変化して硫化物生成能力が低下するので調整後3か月以内のもの(冷所保存)を用いる

 

※2 10分経過で硫黄が析出し、白く濁り始めるから

 

ネスラー管の時は2本並べて蓋明けて垂直にもち、色の濃さを見比べる。比色に適した濃度は上方なら
Pb20~30μg/50mL、側方ならPb30~50μg/50mLが見やすい。このため、医薬品それぞれでは普通Pb標準液は2~5mLをとるよう試料の採取量に考慮されている。ちなみに3mL以下なら上方、以上なら側方が滴している。