1.化学的試験法 (10)鉄試験法
1.10 鉄試験法
鉄試験法は,医薬品中に鉄が〇〇以上含まれたないかを確認する試験.医薬品の各条には鉄(Fe)の量(ppm)で上限を表している.
※呈色感度がUSP(アメリカの薬局方)、EP法(欧州の薬局方)に比べて2倍くらい良い上、試薬の濃度、添加量に多少ずれあっても結果があんまり変わらないので初心者にもおすすめ。
1. 検液と比較液の調製法
医薬品各条に別に書いてない限り,次のように検液と比較液を調製する.
1.1. 第1法
これは調査する医薬品が水溶性物質の時に使う。
〈検液〉
医薬品各条に書いてある量の試料を量り,鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液30 mLを加える.
※このときもし試料が溶けなかったら加温して溶かす.
〈比較液〉
医薬品各条に書いてある量の鉄標準液をとり,鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液30 mLを加える.
1.2. 第2法
これは調査する医薬品が無機性物質か酸に溶ける物質の場合に使う。
簡単に概要を言うとこいつらを希塩酸で溶解後、アンモニアでpHを元に戻す。
〈検液〉
医薬品各条に書いてある量の試料を量り,希塩酸10 mLを加え,もし溶けなかったら加温して溶かす.次にL-酒石酸0.5 g※1を加えて溶かした後,フェノールフタレイン試液1滴を加え,アンモニア試液を液が微赤色となるまで滴加し,更に鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液20 mLを加える。
※1 酒石酸を加える理由
希塩酸で溶かした後、中和の過程で沈殿を生成する場合、鉄イオンを酒石酸・鉄キレートとすることで鉄イオンの沈殿を防ぐため。
〈比較液〉
医薬品各条に書いてある量の鉄標準液をとり,希塩酸10 mLを加えた後,検液の調製法と同様に操作し,比較液とする.
1.3. 第3法
調査する医薬品が有機性物質で水に溶けないものの場合に使う。
また、ここで用いるるつぼは石英製又は磁製のるつぼを沸騰させた希塩酸中に1時間浸した後,十分に水洗し,乾燥したものを用いる
簡単に概要を言うとこいつらを灰化して有機物取り除いて無機物にした後、塩酸で溶かす流れ。
〈検液〉
医薬品各条に書いてある量の試料をるつぼに量り,硫酸少量を加え※2て,初めは注意して弱く加熱し,次に強熱して灰化する.
※2 硫酸を加えたとき、試料を完全に溶かす必要はない。試料が潤う程度でよい。
冷後,薄めた塩酸(2→3) 1 mL、薄めた硝酸(1→3) 0.5 mLを加え,水浴上で蒸発乾固した後,残留物に薄めた塩酸(2→3) 0.5 mL及び水10 mLを加え,加温して溶かした後,鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液30 mLを加える.
〈比較液〉
医薬品各条に書いてある量の鉄標準液をるつぼに量り,薄めた塩酸(2→3) 1 mL、薄めた硝酸(1→3) 0.5 mLを加え,水浴上で蒸発乾固した後,検液の調製法と同様に操作し,比較液とする.
2. 操作法
別に規定するもののほか,次の方法によって操作する.
2.1. A法
①検液と比較液をネスラー管にとり,L-アスコルビン酸溶液(1→100) 2 mL※3を加えて混和し、30分間放置。
※3 L-アスコルビン酸加える理由
アスコルビン酸で鉄をFe(Ⅱ)に還元するため。こうしないとこの後の呈色反応でキレート形成できない
②その後2,2′-ビピリジルのエタノール(95)溶液(1→200) 1 mLと水を加えて50 mLとし,30分間放置する。※4
※4 この時Fe(Ⅱ)・2,2′-ビピリジルキレート陽イオンの呈色反応が起きている。
構造を書くのが面倒なので省略するが2,2′-ビピリジルとはピリジンが6個集まって円を形成したような形で中心に穴がある。ここにFe2+がちょうど当てはまるわけだ。ちなみにクロムもあてはまる。
③白色の背景を用いて液の色を比較する.
基本的に色の比較で検液<比較液となればOK。
2.2. B法
第1,2法で検液、比較液を調製した場合は主にこれ。第2法の沈殿生じるやつにも使える。
①検液と比較液にL-アスコルビン酸0.2 gを加えて溶かし,30分間放置
②2,2′-ビピリジルのエタノール(95)溶液(1→200) 1 mLを加えて30分間放置
ここまではA法と変わらない
③2,4,6-トリニトロフェノール溶液(3→1000) 2 mLと,2-ジクロロエタン20mLを加え,激しく振り混ぜた後,1,2-ジクロロエタン層を分取する。このとき必要ならば脱脂綿上に無水硫酸ナトリウム5 gを層積した漏斗でろ過する。
※A法でできたFe(Ⅱ)・2,2′-ビピリジルキレート陽イオンにさらに陰イオン(ピクリン酸)を会合させて生成する三元錯体による呈色物を溶媒抽出する方法。
これまた構造式書くのが面倒なので省略するが、Fe(Ⅱ)・2,2′-ビピリジルキレート陽イオンは横を挟み込む形でこれにさらに上下からピクリン酸が挟み込んでいる状態と考えてもらいたい。想像つくだろうがこれによりよりFe2+を正確に測定できる。
なお、Fe(Ⅱ)・ジビピリジル・ピクリン酸の三元錯体で抽出溶媒を比較(1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、酢酸エチル、シクロヘキサンなど)すると1,2-ジクロロエタンが最も抽出率が高かった。
④白色の背景を用いて液の色を比較する
基本的に色の比較で検液<比較液となればOK。