猫でも分かる日本薬局方試験

日本薬局方の試験方法について分かりやすく解説します。

1.化学的試験法 (2)アンモニウム試験法

アンモニウム試験法は,医薬品中に混在するアンモニウム塩の限度試験である.これは体にとって有害なアンモニウム塩を規制するためだよ。
医薬品各条には,アンモニウム(NH4+として)の限度をパーセント(%)で表示してある。
ちなみに昔はネスラー法が使われていたが、ネスラー試薬に含まれる塩化第2水銀が環境上良くないのでこれになった。

1. 装置
図1.02-1に示すアンモニウム試験用蒸留装置を用いる.ただし,減圧蒸留法(減圧して沸点下げる)を使う場合,図1.02-2の装置を用いる.

どちらも総硬質ガラス製であ,接続部はすり合わせにしてもよい.また,装置に用いるゴムは全て水酸化ナトリウム試液中で10 ~ 30分間煮沸し,次に水中で30 ~ 60分間煮沸し,最後に水でよく洗ってから使ってね.なんでこんなことするのか?そりゃあ酸とか混じってたらちゃんと測定できないでしょう?

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2. 操作法

※(あらかじめ、水とアルカリ剤のみで規定の蒸留量まで加熱し、装置内のアンモニアを追い出した後、速やかに留液に相当する量の水を補い、試料を加えて再び加熱蒸留すると汚染による誤差を減らせる。

2.1. 検液及び比較液の調製
医薬品の各条に書いてない限り,次の方法で検液と比較液を調製してね.
<検液>
蒸留フラスコAに、以下のものを順番に加える。
・医薬品各条に規定する量の試料
・水140 mL
・酸化マグネシウム2g

(アルカリ剤。もし水酸化ナトリウムを用いると、L-Trp,L-Thr,、塩酸リジンなどは脱アミノ化反応を起こすから。)

その後、蒸留装置(図1.02-1)を連結する.
そして、受器F (メスシリンダー)には
ホウ酸溶液(1→200) 20 mLを加える

吸収液の役割り:アンモニウムを吸収するため:ホウ酸アンモニウム、硫酸も吸収できるがこのときは呈色反応時のpHを厳密に補正する必要がある)


そして冷却器の下端を吸収液に浸し,1分間5 ~ 7 mLの留出速度となるように加熱温度を調節し,留液60 mLを得るまで蒸留する.
冷却器の下端を液面から離し,少量の水でその部分を洗い込み,水を加えて100 mLとし,検液とする.

 

※もし、減圧蒸留法を適用する場合,
減圧蒸留フラスコLに以下のものを順番に加える
・医薬品各条に規定する量の試料
・水70 mL
・酸化マグネシウム 1g

その後、減圧蒸留装置(図1.02-2)を連結する.

そして受器M (フラスコ)には

・ホウ酸溶液(1→200) 20 mLを加える。

 

そして減圧蒸留フラスコの枝の先端を吸収液に浸し,水浴又はこれに代わる装置を用い60℃に保ち,1分間に1 ~ 2 mLの留出速度となるように減圧度を調整し,留液30 mLを得るまで減圧で蒸留する.


蒸留中は受器M (フラスコ)の球部を水で冷却する.枝の先端から液面を離し,少量の水でその部分を洗い込み,水を加えて100 mLとする.これを検液とし,試験を行う.

 

<比較液>
医薬品各条に書いてある量のアンモニウム標準液を蒸留フラスコAか減圧蒸留フラスコLにとり,以下のように操作する.

2.2. 検液及び比較液の試験
医薬品各条で書いてないなら次の方法による.
ネスラー管に、以下を加えて、混ぜる
・検液及び比較液30 mLずつ
・フェノール・ペンタシアノニトロシル鉄(Ⅲ)酸ナトリウム試液6.0 mL

アンモニウム態窒素を吸光度から測定するために必要)

 

そして、次亜塩素酸ナトリウム水酸化ナトリウム試液4 mL 及び水を加えて50 mLとし,混和した後,60分間放置する.

最後に、両管を白色の背景を用いて色の違いを見やすくして、上か横から観察して液の色を比較する.検液の色は,比較液の色より濃くない

 

1.化学的試験法 (1)アルコール数測定法 ②ガスクロマトグラフィー

前回は蒸留法を説明したが、次はもう一つの方法、ガスクロマトグラフィーについて説明するよ。

まずは前回の復習だけど、アルコール数測定法とは、

15℃における試料10 mL当たりのエタノール層の量(mL)

今回はエタノールの量をガスクロマトグラフィーで測定するよ。

ガスクロマトグラフィーが分からない人へ…

簡単に言うと、試料を気化して成分と量を調べる機械だ。量を測定する方法は、量が分かっているエタノールを100として、比較して計算する。これ以上はすべてを語りつくすには時間が足りないので省略します(日本薬局方に詳しい説明があります)。

 

2. 第2法 ガスクロマトグラフィー(ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィー)
15℃で試料を量り,次のガスクロマトグラフィーにより操作し,エタノール(C2H5OH)の含量(vol%)を測定し,この値からアルコール数を求める方法である.
※ヘッドスペース・ガスクロマトグラフに注入する試料がガスのおかげでカラム汚染による誤差がない。
 液体試料は通常のガスクロを使う。
2.1. 試薬
(ⅰ) アルコール数測定用エタノール

エタノール(C2H5OH)の含量を測定したエタノール(99.5vol%)を使うこいつを100として、試料内のエタノールと比較するわけだ.ただし,エタノールの比重d (15、15)とエタノール(C2H5OH)含量との関係は,0.797:99.46vol%,0.796:99.66 vol%,0.795:99.86 vol%である.
2.2. 試料溶液及び標準溶液の調製
(ⅰ) 試料溶液:

エタノール(C2H5OH)約5 mLに対応する量の試料を15±2℃で正確に量り,水を加えて正確に50 mLとする.この液25 mLを正確に量り,これに内標準溶液10 mLを正確に加え,更に水を加えて100 mLとする.(液が濁っても測定には問題なし。エタノール含量は2.5vol%。検量線は1.5~5%において回帰線Y=0.346X+0.0019、相関係数γ=0.9998が得られる:多少誤差有)

※内標準溶液 アセトニトリル溶液(3→50)
(ⅱ) 標準溶液(このエタノール量が100となる):

試料と同じ温度のアルコール数測定用エタノール5 mLを正確に量り,水を加えて正確に50 mLとする.この液25 mLを正確に量り,これに内標準溶液10 mLを正確に加え,更に水を加えて100 mLとする.
2.3. 操作法
試料溶液及び標準溶液25 mLずつを量り,それぞれ100 mLのゴム栓付き細口円筒形のガラス瓶(液量は15~60mL)に入れ,ゴム栓をアルミキャップで巻き締めて密栓し,これをあらかじめ温度変化の少ない室内で1時間以上放置した水中に首まで入れ,液が栓に付着しないように穏やかに振り混ぜた後,30分間放置(室温に近い恒温水槽の方が良い。標準と試料の温度を同じにするため)する.それぞれの容器内の気体1 mLにつき,次の条件でガスクロマトグラフィーにより試験を行い,内標準物質のピーク高さに対するエタノールのピーク高さの比QT及びQSを求める.(ガスタイトシリンジは2.5mL、針の内径約0.4mmを用いる。)

アルコール数=QT/QS×5 (mL)/試料の量(mL)×アルコール数測定用エタノール中のエタノール(C2H5OH)の含量(vol%)/9.406

 

操作条件
検出器:水素炎イオン化検出器
カラム:内径約3 mm,長さ約1.5 mのガラス管に150 ~
180 μmのガスクロマトグラフィー用多孔性エチルビニルベンゼン-ジビニルベンゼン共重合体(平均孔径0.0075 μm,500 ~ 600 m2/g)を充塡する.
カラム温度:105 ~ 115℃の一定温度(気体にするからね
キャリヤーガス:窒素(他の物質と反応しにくいから
流量:エタノールの保持時間が5 ~ 10分になるように調整する.
カラムの選定:標準溶液から得た容器内の気体1 mLにつき,上記の条件で操作するとき,エタノール,内標準物質の順に流出し,その分離度が2.0以上のものを用いる(これが基本、教科書的にも。これより小さいとほんとに別のものなのか?ピークが合わさって正しい数値かどうかが分からなくなる).(1.7以上:保持時間の比であれば定量可能)

 

1.化学的試験法 (1)アルコール数測定法 ①蒸留法

こいつは要するに大まかなアルコールの量を測定する試験。
チンキ剤(生薬をエタノールでしぼりだしたもの)などのエタノールを含む製剤に最低量含まれているか調べるために作られた。
上限値の規定のないものが多いが、これは金の問題上大過量のエタノールが含まれていることはありえない。
だって多すぎると酒税でえらい金がとられるし。

方法:
次の2つの方法で測定した15℃における試料10 mL当たりのエタノール層の量(mL)をいう.
温度、試料の量を合わせるのは、ずれると結果に影響が出るから。まあさすがにこんなことは言われなくても理系なら分かってるとは思うが…。

① 蒸留法
高校でもおなじみの沸点の違いを利用して分離する方法。
15℃で試料10 mLを量り,蒸留して得た15℃におけるエタノール層の量(mL)を測定し,アルコール数とする方法である.
熟練すれば誤差は1%以内。熟練すれば。大事なことなので2回言いました。たかだか1回10回の失敗で嘘つきというんじゃねえぞこのヤロー。ちなみにこの試験ではないがどこぞの公的機関の試験所が企業にちゃんと測れないのでどうすればいいか聞いてきたのは一部では有名な話。
ちなみにこのアルコール数に9.406かければ15℃の試料中のエタノールのvol%が分かる
エタノール量mL)×9.406=エタノールvol%

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1.1. 装置
存在感のある上の図1.01-1に示すものを用いる(第17改正日本薬局方を引用させていただいております。).総硬質ガラス製で接続部はすり合わせにしてもよい.要するに気体逃がさないよう密封されてればいい。
1.2. 試液
誰でも知ってるであろうアルカリ性フェノールフタレイン試液を用いる。なんでアルカリ性か?色を赤色にするためだよ。なんでこれを入れるのか?エタノールの量を分かりやすくするためだよ。
作り方:フェノールフタレイン1 gに水酸化ナトリウム試液7 mL(これでアルカリ性にする)及び水を加えて溶かし,全量を100 mLとする.
1.3. 操作法
試料10 mLを15±2℃で正確に量り,蒸留フラスコAに入れ,水5 mLを加え,沸騰石(小学生でも使う沸騰を抑えるもの。急に沸騰するとちゃんと余計なものまで気体になって分離できない)を入れ,注意してエタノール分を蒸留し,留液は共栓メスシリンダーDにとる.
蒸留は試料のエタノール含量によってほぼ表1.01-1に示す留液(mL)を得るまで行う(90以上または30以上は回収率が悪いと判断してね。恨むなら自分の腕を恨みなさい).

 表1.01-1(これも日本薬局方引用)

試料のエタノール含量(vol%)     留液(蒸留で取れた液ね)

80以上                   13

80~70                   12

70~60                   11

60~50                   10

50~40                   9

40~30                   8

30以下                   7

蒸留に際して著しく泡立つときは,リン酸若しくは硫酸を加えて強酸性とするか,又は少量のパラフィン,ミツロウ若しくはシリコーン樹脂を加えて蒸留する.
試料に次の物質を含む場合は,蒸留前に次の操作を行う.
(ⅰ) グリセリン:蒸留フラスコの残留物が少なくとも50%の水分を含むように適量の水を加える.これはグリセリン沸点は290℃で高すぎるから。共沸で沸点下げるためだよ。
(ⅱ) ヨウ素ヨウ素の色は黒なのでこのままではフェノールフタレインの赤色が見えない。だから、亜鉛粉末を加えて脱色する.(Zn+I2→ZnI2となりI2がなくなり脱色)
(ⅲ) 揮発性物質:かなりの量の精油クロロホルム,ジエチルエーテル又はカンフルなどを含む場合は,試料10 mLを正確に量り,分液漏斗に入れ,塩化ナトリウム飽和溶液10 mL(飽和食塩水で塩析するため。低分子有機化合物は高濃度の塩溶液に溶けないから。)を加えて混和し,石油ベンジン10 mLを加え,振り混ぜた後,下層の水層を分取し,石油ベンジン層は塩化ナトリウム飽和溶液5mLずつで2回振り混ぜ,全水層を合わせて蒸留を行う.ただし,この場合は,試料のエタノール含量に応じて留液を表の量より2 ~ 3 mL多くとる.
(ⅳ) その他の物質:遊離アンモニアを含む場合は,希硫酸を加えて弱酸性とし,揮発性酸を含む場合は,水酸化ナトリウム試液を加えて弱アルカリ性とする.また,石ケンと共に揮発性物質を含む場合は,(ⅲ)の操作において石油ベンジンを加える前に,過量の希硫酸を加えて石ケンを分解する.留液に炭酸カリウム4 ~ 6 g及びアルカリ性フェノールフタレイン試液1 ~ 2滴(上層のエタノールを赤に染め、水層との区別をしやすくするため。これにより、塩析が不十分であっても測定値を見分けやすくなる)を加え,強く振り混ぜる(炭酸カリウムが水分を吸収し、K2CO3・H2Oができる:塩析。).水層が白濁しない場合は,更に適量の炭酸カリウムを加えて(1~2gずつ。完全に溶けてから次を加える。)振り混ぜた後,15±2℃の水中に30分間放置し,浮上した赤色のエタノール層のmL数を読み取り,アルコール数とする.もし,両液層の接界面が明らかでない場合は,水を滴加し,強く振り混ぜ,前と同様にして観察する.

 

 

試験の種類

日本薬局方には大別して7種類の試験法がある。

1、化学的試験法

2、物理的試験法

3、粉体物性測定法

4、生物学的試験法/生化学的試験法/微生物学的試験法

5、生薬試験法

6、製剤試験法

7、容器・包装材料試験法

何やら聞いたことありそうなものからなさそうなものまでさまざまだが、1つずつ説明していこう。

 

1、化学的試験法

化学という言葉に聞き覚えはあるが、何するか正確に説明は難しい。いろいろあるが、この試験では重金属試験やアルコール測定などが含まれているが、要するに

特定の物質が含まれているか?

調べるための試験と思ってくれていい。ちなみによくわかってない人は、鉱油試験とかがあるやつですと一部の試験名だけ自信満々に言う

 

2、物理的試験法

ガリレオという小説及びドラマ、アニメだとアルドノア・ゼロで何となく言葉の意味の想像はつくだろう。よく知らない人は運動とか力学とか電気でしょう?と答えるが、ここは日本薬局方

ここでの物理学とは、その物質の密度・融点・沸点・比熱や電気伝導・屈折などだ。分かりづらかったらポケモン種族値と考えてもらいたい。

要するに、

物質の特徴があるかどうかを調べるための試験

と覚えていてほしい。試験は融点測定法や、蛍光度測定とかだ!

 

3、粉体物性測定法

薬学かじったやつなら聞いたことあるだろう。薬で粉体とは、粉薬のことだ。実は薬学ではこの粒子の密度やら面積やらを測定する。マイナーすぎるけど、これやらないと飲みやすいとか溶けやすいとかが分からないから結構重要である。

要するに…

粉に関する試験

である。

 

4、生物学的試験法/生化学的試験法/微生物学的試験法

何で名前が3つもあるの?と思うかもしれないが、単に各分野のやつが名前取り合って譲らなかった生物学は奥深く、一言では表現しきれないからだ

ここでは毒素を測るエンドトキシン試験やら、抗生物質の効果を調べる微生物学的力価試験、そして無菌試験法がある。

要するに

生物使った試験

である。

 

5、生薬試験法

名前の通り、生薬すなわち漢方のための試験

 

6、製剤試験法

製剤とは要するにみんなが普段思い浮かべる薬(錠剤やら塗り薬とか)。え、じゃあ今までのは何だったの?と思うかもしれないが、薬は基本的に1種類の物質からできてはいない(いや、そういうのもあるけど少数だよ)。今までのは薬を構成する成分1つ1つを調べるための試験だったんだよ。

ちなみにここでは錠剤の壊れやすさやら軟膏の粘り具合やら注射に変なの入ってないかなどが検査される。

要するに

薬がちゃんと販売できるか検査する試験

だよ。

 

7、容器・包装材料試験法

今までのは薬自体だった。だけど仮に液体の薬が入ってる瓶が破裂しました!とかだったら怖いよね。だから、ここでは注射に使うガラスが大丈夫か?だったりこのプラスチック容器はこの薬にあってるの?などを試験する。

要するに

薬に触れる容器が大丈夫かを調べる試験

だよ。

 

次から本格的に各試験を説明するからよろしくね!

 

 

 

 

 

はじめに

日本薬局方、それは一般人どころか病院や薬局で働く薬剤師にとって全くなじみのないもの。はっきり言って製薬会社につとめない限り分からない。いまだに正しい試験なのかわからないものもあるが、常に研鑽をされてきたため、説得力はトップクラス。どれくらいかというと、

厚生労働省職員「おい、お前これ飲んだ患者が体調悪くなったらしいけど、品質に問題ないのか?」

企業「え、でもこいつちゃんと日本薬局方の試験やってOK出てますよ?」

厚生労働省「じゃあ、アレルギーだわ。品質に問題ないな。」

(極端だが)こんな感じである。
一応、薬の検査は薬局内で行うことを前提にしてあるが、やれる奴は少ないだろう。器具あっても試験でどうしてこうしてああするのかを多分説明できない奴は多い。一度薬剤師に質問してみてほしい。
多分うやむやにされて終わるうえ、めんどくさい患者とカルテに書かれることであろう。

ちなみにこの試験法はPMDAのサイトにPDFファイルがあるので興味がある人はぜひ見てみてほしい。
じゃあ、まずは試験法からだ!
※何か間違いがあれば遠慮なくおっしゃってください。私もまだまだ未熟者ですので…。