猫でも分かる日本薬局方試験

日本薬局方の試験方法について分かりやすく解説します。

1.化学的試験法 (10)鉄試験法

1.10 鉄試験法

 鉄試験法は,医薬品中に鉄が〇〇以上含まれたないかを確認する試験.医薬品の各条には(Fe)の量(ppm)で上限を表している.

 

※呈色感度がUSP(アメリカの薬局方)EP法(欧州の薬局方)に比べて2倍くらい良い上、試薬の濃度、添加量に多少ずれあっても結果があんまり変わらないので初心者にもおすすめ

 

1. 検液と比較液の調製法

医薬品各条に別に書いてない限り,次のように検液と比較液を調製する.

1.1. 第1法

これは調査する医薬品が水溶性物質の時に使う。

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料を量り,鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液30 mLを加える.

※このときもし試料が溶けなかったら加温して溶かす.

〈比較液〉

医薬品各条に書いてある量の鉄標準液をとり,鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液30 mLを加える.

 

1.2. 第2法

これは調査する医薬品が無機性物質か酸に溶ける物質の場合に使う。

簡単に概要を言うとこいつらを希塩酸で溶解後、アンモニアでpHを元に戻す

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料を量り,希塩酸10 mLを加え,もし溶けなかったら加温して溶かす.次にL-酒石酸0.5 g1を加えて溶かした後,フェノールフタレイン試液1を加え,アンモニア試液を液が微赤色となるまで滴加し,更に鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液20 mLを加える。

1 酒石酸を加える理由

希塩酸で溶かした後、中和の過程で沈殿を生成する場合、鉄イオンを酒石酸・鉄キレートとすることで鉄イオンの沈殿を防ぐため。

〈比較液〉

医薬品各条に書いてある量の鉄標準液をとり,希塩酸10 mLを加えた後,検液の調製法と同様に操作し,比較液とする.

 

1.3. 第3法

調査する医薬品が有機性物質で水に溶けないものの場合に使う。

また、ここで用いるるつぼは石英製又は磁製のるつぼを沸騰させた希塩酸中に1時間浸した後,十分に水洗し,乾燥したものを用いる

簡単に概要を言うとこいつらを灰化して有機物取り除いて無機物にした後、塩酸で溶かす流れ。

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料をるつぼに量り,硫酸少量を加え2て,初めは注意して弱く加熱し,次に強熱して灰化する.

2 硫酸を加えたとき、試料を完全に溶かす必要はない。試料が潤う程度でよい。

冷後,薄めた塩酸(23) 1 mL薄めた硝酸(13) 0.5 mLを加え,水浴上で蒸発乾固した後,残留物に薄めた塩酸(23) 0.5 mL及び10 mLを加え,加温して溶かした後,鉄試験用pH 4.5の酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液30 mLを加える.

〈比較液〉

医薬品各条に書いてある量の鉄標準液をるつぼに量り,薄めた塩酸(23) 1 mL薄めた硝酸(13) 0.5 mLを加え,水浴上で蒸発乾固した後,検液の調製法と同様に操作し,比較液とする.

 

2. 操作法

別に規定するもののほか,次の方法によって操作する.

 

2.1. A法

①検液と比較液をネスラー管にとり,Lアスコルビン酸溶液(1100) 2 mL3を加えて混和し、30分間放置。

3 Lアスコルビン酸加える理由

アスコルビン酸で鉄をFe()に還元するため。こうしないとこの後の呈色反応でキレート形成できない

 

②その後2,2′-ビピリジルのエタノール(95)溶液(1200) 1 mLを加えて50 mLとし,30分間放置する。4

 

4 この時Fe()2,2′-ビピリジルキレート陽イオンの呈色反応が起きている。

   構造を書くのが面倒なので省略するが2,2′-ビピリジルとはピリジン6個集まって円を形成したような形で中心に穴がある。ここにFe2+がちょうど当てはまるわけだ。ちなみにクロムもあてはまる。

 

③白色の背景を用いて液の色を比較する.

 基本的に色の比較で検液<比較液となればOK

2.2. B法

1,2法で検液、比較液を調製した場合は主にこれ。第2法の沈殿生じるやつにも使える。

①検液と比較液にLアスコルビン酸0.2 gを加えて溶かし,30分間放置

 

2,2′-ビピリジルのエタノール(95)溶液(1200) 1 mLを加えて30分間放置

ここまではA法と変わらない

 

2,4,6-トリニトロフェノール溶液(31000) 2 mL,2-ジクロロエタン20mLを加え,激しく振り混ぜた後,1,2-ジクロロエタン層を分取する。このとき必要ならば脱脂綿上に無水硫酸ナトリウム5 gを層積した漏斗でろ過する。

A法でできたFe()2,2′-ビピリジルキレート陽イオンにさらに陰イオン(ピクリン酸)を会合させて生成する三元錯体による呈色物を溶媒抽出する方法。

これまた構造式書くのが面倒なので省略するが、Fe()2,2′-ビピリジルキレート陽イオンは横を挟み込む形でこれにさらに上下からピクリン酸が挟み込んでいる状態と考えてもらいたい。想像つくだろうがこれによりよりFe2+を正確に測定できる。

 

なお、Fe()・ジビピリジル・ピクリン酸の三元錯体で抽出溶媒を比較(1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、酢酸エチル、シクロヘキサンなど)すると1,2-ジクロロエタンが最も抽出率が高かった

 

 ④白色の背景を用いて液の色を比較する

基本的に色の比較で検液<比較液となればOK

1.化学的試験法 (8)窒素定量法(セミミクロケルダール法)

窒素定量法(セミミクロケルダール法)

窒素定量法は,窒素を含む有機化合物を硫酸で加熱分解し,窒素をアンモニア性窒素とした後,アルカリにより遊離させ,水蒸気蒸留法により捕集したアンモニアを滴定法により定量する方法である.
要するに窒素をアンモニアにして測定する
※アゾやニトロを含むとNOX、N2でガスとなり、一部が消失→防ぐには還元など操作が増えてしまうのでこの方法は使えない。
ただ、それ以外の蛋白質アミノ酸などには可能で、正確性も高いので基本的にはこちらを用いる。

1. 装置
具体的な図は日本薬局方で確認されたし。
総硬質ガラス製で,アルカリ性アンモニア窒素を発生させるので、酸性が残っているとまずい。だから酸性物質を除去するために、装置に用いるゴムは全て水酸化ナトリウム試液中で10 ~ 30分間煮沸し,次に水中で30 ~ 60分間煮沸し,最後に水でよく洗ってから用いる.

〈器具一覧〉

A:ケルダールフラスコ
B:水蒸気発生器で,硫酸2 ~ 3滴を加えた水を入れ,突沸を避けるために沸騰石を入れる.
C:しぶき止め
D:給水用漏斗
E:蒸気管
F:アルカリ溶液注入用漏斗
G:ピンチコック付きゴム管
H:小孔(径は管の内径にほぼ等しい.)
J:冷却器(下端は斜めに切ってある.)
K:受器

※ただし,有機物の分解,生成したアンモニアの蒸留及びその定量における滴定終点検出法(電位差滴定法,比色滴定法等)など,自動化された装置を用いることもできる.


2. 装置適合性
自動化された装置(電位差滴定法,比色滴定法等)を用いる場合には,まず装置の適合性を定期的に確認する必要がある.要するにちゃんと測定できるかを確認する。
アミド硫酸(H3NO3S:97.094)(標準試薬)をデシケーター(減圧,シリカゲル)中で約48時間乾燥しその約1.7 gを精密に量り,水に溶かし,正確に200 mLとする.
この液2 mLを正確に量り,分解用フラスコに入れ,以下それぞれの装置の指示に従って操作し,アミド硫酸中の窒素含量(%)を求めるとき,14.2 ~ 14.6%(14/97.094×100=14.441)の範囲にある.


3. 試薬・試液
(1)分解促進剤
これは脱水炭化により試料を分解し、炭素を遊離させるために必要な試薬。この炭素が硫酸を還元し、SO2とCO2を生成する。

・作り方
硫酸カリウム10g硫酸銅(Ⅱ)五水和物1 g(+医薬品各条で書かれてるものがあれば)
を混合し,粉末にしたもの1 gを使う.
これ以外に同等以上の結果を与えることが検証されてれば種類、量を変更OK

・具体的な反応

含窒素有機化合物+H2SO4→CO2+H2O+NH4HSO4+SO2
これにアルカリを加えると、アンモニアを遊離する。
NH4HSO4+NaOH→NH3Na2SO4+2H2O

水蒸気と共に蒸留されるアンモニアを吸収液(ホウ酸液溶液)に吸収させる。
NH3+H3BO3→NH4・BO2+H2O(1)
2NH4・BO2+2H3BO3→(NH4)2B4O7+3H2O(2)
希薄溶液では(1)の反応が主。次に0.005mol/L硫酸で滴定する。
2NH3+H2SO4→(NH4)2SO4
従って対応量は
H2SO4=2NH3=(NH4)2SO4


4. 操作法
医薬品各条に書いてない限り,次の方法で行う.
①窒素(N) 2 ~ 3 mg正確に量り,ケルダールフラスコに入れ,分解促進剤を加える。
 フラスコの首に試料ついてたら少量の水で洗い込み,更にフラスコ内壁に沿って硫酸7 mLを加える.
②フラスコを振り動かしながら,過酸化水素※1) 1 mLを少量ずつ内壁に沿って加える.フラスコを徐々に加熱(フラスコの首部分で硫酸が液化するまで)する.
③液が青色澄明緑色澄明※2)となり,さらにフラスコの内壁に炭化物がなくなったら,加熱をやめる.もし上記変化起こらないなら、冷却した後,過酸化水素を少量追加し,再び加熱する.
④冷後,水20 mLを注意しながら加えて冷却する.そして、フラスコを,あらかじめ水蒸気を通じて洗った蒸留装置に連結する.受器には
ホウ酸溶液(1→25) 15mL、ブロモクレゾールグリーン・メチルレッド(※3)試液3滴、適量の水
を加え,冷却器の下端をこの液に浸す.
⑤漏斗から水酸化ナトリウム溶液(2→5) 30 mLを加え,注意して水10 mLで洗い込み,ピンチコック付きゴム管のピンチコックを閉じ,水蒸気を通じて留液80 ~ 100 mLを得るまで蒸留する.
⑥冷却器の下端を液面から離し,少量の水でその部分を洗い込み,0.005 mol/L硫酸で滴定する.
※ただし,滴定の終点は液の緑色微灰青色微灰赤紫色に変わるときとする.
 同様の方法で空試験を行い,補正する。

 0.005 mol/L硫酸1 mL=28.01(2N)×0.005×0.001gN=0.1401 mg N

※ただし,自動化された装置を用いる場合,その操作法はそれぞれの装置の指示に従って行う.

※1 過酸化水素加えるのは、分解時間短縮の為。ショ糖でもOK
※2 この色は還元が終了し、アンモニアが生成した証明
※3 メチルレッドよりも滴定終末点の変色(緑→微灰青色→微灰赤紫色:PH5)が分かりやすいから。

1.化学的試験法 (7)重金属試験法

1.07 重金属試験法

 

名前の通り、医薬品中の重金属が各条に規定する量以下であるかを確認する試験である
なんでこんなことを? まあ、重金属って言う名前からして体に悪そうというのは想像しやすいだろう。
ちなみに重金属とは,酸性で硫化ナトリウム試液によって呈色する金属性混在物のことである。
細かく言うと、pH3.0~3.5で黄色~黒褐色の不溶性硫化物を形成するPb,Bi,Cu,Cd,Sb,Sn,Hgなどの有害性重金属。色は濃度に比例する。
ちなみに量は鉛(Pb)(硫化鉛:黒色沈殿物)の量として表すため、医薬品各条には,重金属(Pbとして)の限度をppmで(書いてある。

※鉛を基準にしたのは諸説あるが、検出感度が高い、毒性高いからと言われている。

ヒ素試験法と共に人体に有害な金属を調べる重要な試験。第1~4まであるが、試料の特殊性からこれ以外の方法で試験を行う場合も多い(この場合、1~4法が使えないというわけではない。操作が簡単だから用いている場合もある)。

主な流れは

Pbを精製→PbSで白濁させて検液と濃度を比較する。

1. 検液及び比較液の調製法
別に規定するもののほか,次の方法によって検液及び比較液を調製する.

※10%以上の濃度差がないと目視で色の識別ができないので吸光度を用いた方が良い。(400nm)
1.1. 第1法
この方法を行えるのは、水40mLに溶け、希酢酸2mLを加えても沈殿を生じず、液のpHが3.0~3.5となり、回収率の良いもの。これできないなら2~4法の中から回収率の良いものを選ぶ。

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料をネスラー管にとり,水適量に溶かし,40 mLとする.
これに
希酢酸2 mL
+水
を加えて50 mLとし,検液(PH3~3.5)とする.

〈比較液〉
医薬品各条に書いてある量の鉛標準液をネスラー管にとり,
希酢酸2 mL
+水を加えて50 mL(PH3.0~3.2)とする.
アスピリンなど水に溶けにくい場合は、適当量の有機溶媒(エタノール、アセトン)に溶かしても良い

 

1.2. 第2法
有機系の医薬品によく用いられる。(灰化※して有機物除くからね)

※灰化→酸化して有機化合物を分解し、不揮発生の無機物にする。要するに有機物を除く行為。

〈検液〉
医薬品各条に規定する量の試料を石英製又は磁製のるつぼに量り,緩く蓋をし,弱く加熱して炭化(揮発しやすい有機物を除く)する.
冷後,硝酸2 mL及び硫酸5滴(硫化鉛:固体)を加え,白煙が生じなくなるまで注意して加熱した後,500 ~ 600℃で強熱し,灰化する※

 

※試薬が膨れて外にでないよう、弱い加熱で時間をかけて炭化する。ガスバーナの場合は還元炎生じないよう空気を調節し、小火炎を用いる。硫酸、硝酸は電気炉を傷めるので白煙がほとんど生じなくなるまで弱いバーナーの火炎又は砂浴で加熱することをお勧めする。近年では温度調節が可能なホットプレート砂浴が良く使われる。灰化は炭化物が完全に見られなくなるまで行う

 

冷後,塩酸2 mL(塩化鉛)を加え,水浴上で蒸発乾固し※,残留物を塩酸3滴で潤し,熱湯10mL(塩化鉛溶かすため)を加えて2分間加温する.

 

蒸発乾固は十分に行う、3滴は厳守。塩酸過量は中和に必要なアンモニアの量が多くなり、これにより塩化アンモニウムの量が多くなり、緩衝性がまし、希酢酸2mLを加えた際に検液のpHが4以上になってしまい、よくない

 

次にフェノールフタレイン試液1滴を加え,アンモニア試液を液が微赤色※となるまで滴加し,希酢酸2 mL(酢酸アンモニウムとなり析出)を加え,必要ならばろ過し,水10 mLで洗い,ろ液及び洗液をネスラー管に入れ,水を加えて50 mLとし,検液とする.

 

もし赤になるまで加えると、希酢酸2mLを加えてもpHが3.5以上にならない可能性があり、重金属の正確な判定が出来なくなる。この場合は希塩酸で中和して色を戻す

〈比較液〉

硝酸2 mL,硫酸5滴及び塩酸2 mLを水浴上で蒸発し,更に砂浴上で蒸発乾固し,残留物を塩酸3滴で潤し,以下検液の調製法と同様に操作し,医薬品各条に規定する量の鉛標準液及び水を加えて50 mLとする.

 

1.3. 第3法
これを使うのはほとんどない。ただ、第2法で灰化によって生じる塩酸では溶けないCuなどの還元性金属や不溶性金属酸化物を王水で溶かせる利点はある。この場合、白金るつぼは使えない
<検液>
医薬品各条に書いてある量の試料を石英製又は磁製のるつぼに量り,初めは注意して弱く加熱した後,500 ~ 600℃で強熱し,灰化する.
冷後,王水1 mL(濃塩酸:硝酸=3:1か4:1)を加え,水浴上で蒸発乾固し,残留物を塩酸3滴で潤し,熱湯10 mLを加えて2分間加温する.
次にフェノールフタレイン試液1滴を加え,アンモニア試液を液が微赤色となるまで滴加し,希酢酸2 mLを加え,必要ならばろ過し,水10 mLで洗い,ろ液及び洗液をネスラー管に入れ,水を加えて50 mLとする
<比較液>
王水1 mLを水浴上で蒸発乾固し,以下検液の調製法と同様に操作し,医薬品各条に規定する量の鉛標準液及び水を加えて50 mLとする.

 

1.4. 第4法
日本独自の方法で、第2法で回収率良くない場合用いる。マグネシウム塩はナトリウム塩よりも加熱しても蒸発しにくい利点を生かしたもの。

〈検液〉

医薬品各条に書いてある量の試料を白金製又は磁製のるつぼ※に量り,硝酸マグネシウム六水和物のエタノール(95)溶液(1→10) 10 mLを加えて混和し,エタノールに点火して燃焼させた後,徐々に加熱して炭化する

 

※るつぼはやや大きめの方が良い。硝酸マグネシウムのエタノール溶液と試料は良く混和し、燃やし終えたとき試料が均一に炭化されているよう習熟する

冷後,硫酸1 mLを加え,注意して加熱した後,500 ~ 600℃で強熱し※1灰化する※2.

 

※1 これやる前にまず弱く加熱して均一化する。例外:フィトナジオンは弱く加熱して炭化後、硝酸マグネシウムのエタノール液を用いるものもある。
※2 もしこの方法で,なお炭化物が残るときは,少量の硫酸で潤し,再び強熱して灰化する.

 

冷後,残留物に塩酸3 mLを加えて溶かし,水浴上で蒸発乾固し,残留物を塩酸3滴で潤し,水10 mLを加え,加温して溶かす.次にフェノールフタレイン試液を1滴加えた後,アンモニア試液を液が微赤色となるまで滴加し,希酢酸2 mLを加え,必要ならばろ過し,水10 mLで洗い,ろ液及び洗液をネスラー管に入れ,水を加えて50 mLとし,検液とする.
〈比較液〉

硝酸マグネシウム六水和物のエタノール(95)溶液(1→10) 10 mLをとり,エタノールに点火して燃焼させる.冷後,硫酸1 mLを加え,注意して加熱した後,500 ~ 600℃で強熱する.冷後,塩酸3 mLを加え,以下検液の調製法と同様に操作し,医薬品各条に規定する量の鉛標準液及び水を加えて50mLとする.

 

2. 操作法
色は時間と共に変化するから両者の時差を少なくするようにする。放置時間は5分が適当。10分くらい経過するとイオウの析出で白く濁り始める

検液及び比較液に硫化ナトリウム試液※1を1滴ずつを加えて混和し,5分間※2放置した後,両管を白色の背景を用い,上方又は側方から観察して液の色を比較する.検液の色は,比較液の色より濃くなければOK.

 

※硫化ナトリウム試液 

空気酸化防止のため、安定剤のグリセリンが入っているが、しだいに多硫化物や多チオン酸塩に変化して硫化物生成能力が低下するので調整後3か月以内のもの(冷所保存)を用いる

 

※2 10分経過で硫黄が析出し、白く濁り始めるから

 

ネスラー管の時は2本並べて蓋明けて垂直にもち、色の濃さを見比べる。比色に適した濃度は上方なら
Pb20~30μg/50mL、側方ならPb30~50μg/50mLが見やすい。このため、医薬品それぞれでは普通Pb標準液は2~5mLをとるよう試料の採取量に考慮されている。ちなみに3mL以下なら上方、以上なら側方が滴している。

 

1.化学的試験法 (6)酸素フラスコ燃焼法(ハロゲンフリー分析)

1.06 酸素フラスコ燃焼法(ハロゲンフリー分析)

燃焼時に有害ガスを発生するハロゲンや硫黄が入ってないかどうかを確認する方法。

酸素を満たしたフラスコ中で燃焼分解し, 発生したガスをフラスコ内の吸収液に溶解させ、その後イオンクロマトなどで分析を行うという流れ。
定量値のばらつきが少ないという特徴がある。


1. 装置
図1.06-1に示すものを用いる.

f:id:new-world-7ct:20190903222950p:plain

 

 

[器具について](ジクロフェナミドなどでは製造中にできるセレンの限度試験の検液作成にも使われる。)
A:内容500 mLの無色,肉厚(約2 mm)の硬質ガラス製のフラスコで,口の上部を受け皿状にしたもの.ただし,フッ素の定量には石英製のものを用いる※1.
B:白金製のかご又は白金網筒※2(白金線を用いて栓Cの下端につるす.)
C:硬質ガラス製の共栓.ただし,フッ素の定量には石英製のものを用いる.

※1 フッ素を含む有機化合物を燃やすとフッ化水素ができ、これがガラスと反応していろいろなフッ化水素が出来てしまう。このうち、ケイ素、アルミニウム、カルシウムなどのフッ化物はフッ素の定量を妨害しない。だがホウ酸のフッ化物は水中でフッ素イオンを解離しないので定量が悪くなる。
上記の問題が起こるため、定量にはガラス製ではなく石英製のフラスコや共栓を使う。

※2 白金網は試料が網目から落ちないくらいのサイズ、40~60メッシュ大きさ1.5~2.5cm、線径0.15~0.2mmのものがよい。


2. 検液及び空試験液の調製法
医薬品各条に特に書いてない限り,次の方法で行う.

2.1. 試料のとり方
① 試料が固体の場合:
医薬品各条に規定する量の試料を図に示すろ紙※3の中央部に精密に量りとり,こぼれないように折れ線に沿って包み,白金製のかご又は白金網筒Bのに,点火部を外に出して入れる.
※3 ろ紙はハロゲン、硫黄の配分が少ないもの、成分は一定のものを用いる。

② 試料が液状の場合:
あらかじめ適当量の脱脂綿を,縦50mm,横5 mmのろ紙を用いて,その先端約20 mm (点火部)を残すように巻き込み,白金製のかご又は白金網筒Bの中に入れる.

適当なガラス管に試料を採取し,質量を精密に量り,一端を脱脂綿に接触させて医薬品各条で規定する量の試料をしみ込ませる.


2.2. 燃焼法
①2.1で作った吸収液をフラスコAに入れ,A内に酸素を充満させ,栓Cのすり合わせを水で潤した後,点火部に点火※4し,直ちにA中に入れ,完全に燃焼が終わるまで気密に保持する.
②検液の作成
A内の白煙が完全に消えるまで時々振り混ぜた後,15 ~ 30分間放置し検液とする.
また、別に試料を用いないで同様に操作し,空試験液を調製する.

※4 点火部の点火にマッチを使うと空試験が変動するので使ってはいけない。

 

3. 定量操作法
医薬品各条で特別に書いてない限り,次の方法を使う.
3.1. 塩素又は臭素
Aの上部に少量の水を入れ,注意してCをとり,検液をビーカーに移す.2-プロパノール15 mLでC,B及びAの内壁を洗い,洗液を検液に合わせる.
この液に、
ブロモフェノールブルー試液1滴
+希硝酸(黄色になるまで)
2-プロパノール25 mL※5
そして、滴定終点検出法〈2.50〉の電位差滴定法により0.005 mol/L硝酸銀液で滴定する.
空試験液につき同様に試験を行い,補正する.

※5 洗液にメタノールを用いるより、2―プロぱのーるを使った方が、終点での

   大きい電位飛躍が得られる。

最後に以下の値を用いて比で定量する。
0.005 mol/L硝酸銀液1 mL=0.1773 mg Cl
0.005 mol/L硝酸銀液1 mL=0.3995 mg Br

 

3.2. ヨウ素
Aの上部に少量の水を入れ,注意してCをとり,検液にヒドラジン一水和物※6 

2滴を加え,栓Cを施し,激しく振り混ぜて脱色する.
Aの内容物をビーカーに移し,2-プロパノール25mLでC,B及びAの内壁を洗い,洗液は先のビーカーに移す.
この液に、
ブロモフェノールブルー試液1滴
+希硝酸(黄色になるまで)
そして、滴定終点検出法〈2.50〉の電位差滴定法により0.005 mol/L硝酸銀液で滴定する.
空試験液につき同様に試験を行い,補正する.

最後に以下の値を用いて比で定量する。
0.005 mol/L硝酸銀液1 mL=0.6345 mg I

※6 強力な還元剤、I2→I2-にして脱色する

 

3.3. フッ素
Aの上部に少量の水を入れ,注意してCをとり,検液及び空試験液をそれぞれ50 mLのメスフラスコに移し,C,B及びAの内壁を水で洗い,洗液及び水を加えて50 mLとし,試験液及び補正液とする.
①フッ素約30 μgに対応する試験液(V mL)
②補正液V mL
③フッ素標準液5 mL
④水5mL×3(①~③それぞれの対照液)
それぞれ別の50 mLのメスフラスコに入れ,よく振り混ぜながら
アリザリンコンプレキソン試液※7/pH 4.3の酢酸・酢酸カリウム緩衝液/硝酸セリウム(Ⅲ)試液混液(1:1:1) 30 mL
+水を加えて50 mLとし,1時間放置する.
紫外可視吸光度測定法〈2.24〉により試験を行う.
①,②及び③から得たそれぞれの液の波長600 nmにおける吸光度AT,AC及びASを測定する.
注意)フッ素量45μg/50mLとすること。この濃度以下で検量線は直線になる。またpH4.3の酢酸塩緩衝液の添加量が多すぎると吸光度が低下する。また各試液の加える順番で吸光度が代わる。最も吸光度がいいのは混液だが、不安定なので用事調整が必要。このため、混液いれてから吸光度測定までの時間を一定にする必要がある。

検液中のフッ素(F)の量(mg)=標準液5 mL中のフッ素の量(mg) ×(AT - AC)/AS×50/V

フッ素標準液:フッ化ナトリウム(標準試薬)を白金るつぼにとり,500 ~ 550℃で1時間乾燥し,デシケーター(シリカゲル)で放冷し,その約66.3 mgを精密に量り,水を加えて溶かし,正確に500 mLとする.この液10 mLを正確にとり,水を加えて正確に100 mLとする.(標準液のフッ素量:0.006mg/mL)

※7 フッ素を定量出来る。これとフッ素が錯体を形成し、波長620nmで検出


3.4. 硫黄
Aの上部に少量の水を入れ,注意してCをとり,メタノール15 mLでC,B及びAの内壁を洗い込む.
この液に
メタノール40 mL
+0.005 mol/L過塩素酸バリウム液25 mL
10分間放置した後,
アルセナゾⅢ試液0.15 mLをメスピペットを用いて加え,
0.005 mol/L硫酸で滴定〈2.50〉する.空試験液につき同様に試験を行う.

終点はバリウムーアルセナゾⅢ錯体がアルセナゾⅢに変わる時の赤紫色→紅色である。

最後に以下の値を用いて比で定量する。
0.005 mol/L過塩素酸バリウム液1 mL=0.1604 mg S

1.化学的試験法 (5)鉱油試験法

1.05 鉱油試験法

これは、注射剤及び点眼剤に使う非水性溶剤中に鉱油※1があるかどうか確認する方法である.精度は良い。
まあ、鉱油が体内によろしくない物なのでこの試験をしている。

原理は、

鉱油以外を取り除き、油は水と混ざらない性質を利用して視覚的に見分ける。

※1 鉱油:石油等地下資源のCHもしくは不純物などの混合物、主にパラフィン

 

1. 操作法
①試料10 mLを100 mLのフラスコに入れ,

水酸化ナトリウム溶液(1→6) 15 mL(鉱油意外と反応させ、塩を形成させるため)

エタノール(95) 30 mL

を加える。

②フラスコの口に足の短い小漏斗をのせ,しばしば振り混ぜて水浴上で澄明になるまで加熱する.

③次に浅い磁製の皿に移し,水浴上で加熱してエタノールを蒸発し,残留物に水100 mLを加え,水浴上で加熱するとき,液は濁らない※3

注意)冷たいとゼリー状になるので暑いときに判定する。)

 

※3 油脂をけん化して残留分を水に溶かすと、石けん分は澄明に溶けるが、パラフィン鉱油)はけん化されないので濁る。

けん化:
①昔:油脂、ろうに水酸化アルカリを作用させ、せっけんとグリセリンまたは高級アルコールとを生成する反応。今回はこっち。
②現在:エステル類が酸またはアルカリによって加水分解されてカルボン酸とアルコールになる反応。アルカリの方が触媒作用大きいのでよく用いられる。
パラフィン:炭素数が20以上のアルカンの総称。ろう。

1.化学的試験法 (4)炎色反応試験法

1.04 炎色反応試験法

 

小中学校のころから理科の実験で行われていただろう。

改めて説明する必要はないだろうが、

炎の色で元素を調べる方法

である。

なんでこんなこと起こるのってなると、
炎により、熱励起が起こり、外殻に移動した電子が元の軌道に戻る際エネルギーが放出され、それが可視光の波長なら色が見える

ということである。まあ、物理化学を勉強した人なら何となくわかるであろう。

簡単に言うと、エネルギーは反応前後で等しくなるが、

炎のエネルギーをもらってパワーアップしたが、元に戻るときにそのエネルギーを外に出さないといけない。この外に出したエネルギーががたまたま、カラフルな色であった

ということだ。

[方法]
(1) 金属塩の炎色反応
直径約0.8mmの白金線※1を用いるが、別に折り曲げたりせずに先端は直線のままでいい.

①試料が固体の場合

 白金線と反応しにくい上、炎色反応もない塩酸を少量を加えてかゆ状とし,その少量を白金線の先端から約5 mmまでの部分に付け,水平に保って無色炎中に入れ,試験する.

 

②試料が液体の場合

は白金線の先端を試料中に約5 mm浸し,静かに引き上げて,水平に保って無色炎中に入れ,試験する.

 

※1 白金線を使う理由

安定な元素で加熱しても酸化されない。また触媒作用があり、色が濃く見える。さらにイオン化傾向が小さいのでイオン化傾向が小さい銅も見える


(2) ハロゲン化合物の炎色反応(別名バイルシュタイン反応:フッ素以外のハロゲンの検出法。Cl,Br,Iがあれば緑から青の炎が見える)

[方法]
①網目の開き0.25 mm,線径0.174 mmの銅網を幅1.5 cm,長さ5 cmに切り,銅線の一端に巻き付ける.これをブンゼンバーナーの無色炎中で,炎が緑色又は青色を呈しなくなるまで強熱した※2後,冷却し,更にこの操作を数回繰り返して酸化銅の被膜を完全に付ける.

②冷やした後,この銅網上に,医薬品各条で指定されてない限りは,試料1 mgを付け,点火して燃焼させ,この操作を3回繰り返した後,銅網を無色炎中に入れ,試験する.

 

ちなみに炎色反応が持続するとは,その反応が約4秒間持続することだよ。もし4秒未満なら不純物にハロゲンが含まれていたってことだよ.

 

[原理]

CuO+Cl→CuCl2+O2
上記のようにハロゲン化銅を作る反応を利用している。

フッ化銅は不揮発性(というか不安定なのですぐにCuFからCuF2になる)なのでこの反応ではFは検出できない。

 

※2 酸化銅を形成させ、銅の炎色反応起こらないようにする

1.化学的試験法 (3)塩化物試験法

塩化物試験法は、その名の通り医薬品中に塩化物(Cl)が.どれくらい()入ってるか調べる試験だよ。

原理は、Clが多いほど白色が濃くなることを利用して、視覚的に判断する。

 

1. 操作法※(日本薬局方の各医薬品の項目で、特別な方法が書いてある場合は除く

・検液

医薬品各条に書いてある量の試料をネスラー管にとり,水適量に溶かし,40 mLとする.

この40mL+希硝酸6 mL※1水=50 mLとする.

※1:Agは中性~アルカリ性で褐色の沈殿(AgO)を生じるため、酸性にしなければな 
 らない。また硝酸以外であれば酢酸を用いる。これは、硫酸や塩酸では沈殿を生じる
 からである

 

・比較液

医薬品各条に規定する量※20.01 mol/L塩酸+希硝酸6 mL水=50 mL

ちなみに、検液が澄明でないときは,両液を同条件でろ過する.

※2:薬局方にはCl()%以下と書いてある。

で、検液及び比較液に硝酸銀試液1 mLずつを加えて混和し,光を避け5分間放置。

色を比べるため,白濁を見やすくするために、黒色の背景を用い,ネスラー管の上方又は側方から観察して混濁(AgNO3+HCl→AgCl)を比較する.

検液の白濁は,比較液の白濁より薄い